GLPの交通シミュレーション手法について考える_3
前回は動的シミュレーションを行うべきかについて、大規模小売店立地法(大店立地法)の側面から考えてみましたが、今回は、「重要物流道路における交通アセスメント」という観点から考えてみたいと思います。
昭島に設立されるGLP巨大物流センター・データセンター(以下GLP施設)の計画地は重要物流道路沿いではありませんので、「重要物流道路における交通アセスメント」の対象となる施設ではありません。しかしながら重要物流道路のような大きな幹線道路沿いに建設されて深刻な交通問題を発生させることが予想される施設への対策として策定された制度の内容を考えると、GLP施設はより深刻な交通問題、大渋滞を起こすことに間違いなく、交通アセスメントの考え方を導入した分析対応を行う必要があると思います。
その為、「重要物流道路における交通アセスメント」の制度という観点からGLP施設の計画を見ると、よりその深刻さを感じます。
1.重要物流道路とは
初めて耳にする言葉かもしれませんが、全国の幹線道路のうち「平常時・災害時を問わない安定的な輸送を確保するための物流上重要な道路網」を国土交通大臣が指定する制度が平成30年に道路法等の一部を改正する法律により創設され、その指定された道路を「重要物流道路」と言い、高速道路や国道のような幹線道路が指定されています。
●重要物流道路制度が創設された背景等については下記をご参照下さい。
「重要物流道路制度を契機とした新たな広域道路交通計画について」
●重要物流道路の詳細は下記リンクからご確認ください。
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/butsuryu/Top03-02-03.htm
2.道路交通アセスメントとは
施設の立地に先立って周辺交通に与える影響を予測し、適切な対策を事前に実施することにより、既存の道路交通に支障を与えることなく施設を立地させるとともに、立地後に交通状況が悪化した場合の追加対策について検討することをいいます。
3.対象とする施設は
重要物流道路のうち、一般国道(指定区間)の沿道に立地を予定している施設であって、次の(1)から(4)までに掲げる全ての要件を満たすものを対象とする。と定めています。
(1)当該施設が、次のア又はイに掲げる条件のいずれかに該当するもの。
ア.小売業(飲食店業を除くものとし、物品加工修理業を含む。)を行うための店舗であってその店舗面積が1,000㎡を超えるもの。
イ.当該施設の延床面積が20,000㎡以上のもの(集合住宅を除く)。
(2)当該施設の立地に際し、都市計画法(昭和43年法律第100号)第32条、条例等に基づき、道路管理者に対する協議(以下「法定協議」という)が必要と。されていること。
(3)当該施設から半径2km以内の重要物流道路上に主要渋滞箇所が存在すること。
(4)当該施設の立地に際し、道路法(昭和27年法律第180号)第24条に基づく乗入れ工事の承認申請を予定しているもの。
「重要物流道路における交通アセスメント実施のためのガイドライン」より
上記の中で、(1)ア、に関しては大店立地法に定められた対象施設です。
「GLPの交通シミュレーション手法について考える_1」でも解説していますのでご参照下さい。
重要物流道路で指定されている東京都近郊の道路網の図です。
昭島市近隣の重要物流道路は国道16号線がそれに該当します。
国道16号のような片側2車線以上の道路沿線にGLP施設が建設されるのであれば、現在想定しているような市中の深刻な渋滞などの問題が発生しないのかもしれませんが、今回のGLP施設は片道1車線の市道沿線に建設されるため深刻な問題を起こすものと思います。
上記の重要物流道路に於ける交通アセスメント対象中の施設の中で、(1)ア、に関しては大店立地法に定められた対象施設です。GLP施設は物流施設ですので、(1)イ.に該当すると考えて比較してみると、
GLP施設の建築計画は、敷地面積は524,960㎡ 延べ床面積は1,212,300㎡ です。
重要物流道路に於ける交通アセスメントの対象としているのは、延床面積が20,000㎡以上となっており、GLP施設の延べ床面積の60倍の面積になります。
「GLPの交通シミュレーション手法について考える_1」でも解説していますが、大店法の対象となる小売店の広さは1,000㎡で、動的シミュレーションの対象としているのはその10倍の10,000㎡です。その他の施設の規定からすると60倍という大きさはどれだけ巨大であるのかがお判りいただけると思います。
ましてや片道2車線以上の国道の沿道に建設されるのではなく、片道1車線の市道の沿道に建設されることを考えると尚更です。どれだけ市民生活に影響を与えることになるのかがうかがい知れるのではないでしょうか。
6.動的シミュレーションを実施できるのか
「重要物流道路における交通アセスメント」の制度の考え方から、先ずは道路アセスメントに基づく分析と対策が必要ではないでしょうか。
そして、上記のように大店法で交通アセスメント対象としているのは、1,000㎡以上を対象とし、その10倍の10,000㎡以上は動的シミュレーションを導入すべしという多くの市町村があります。今回はその他施設で規定される広さの60倍の広さを有する施設なのですから、動的シミュレーションが必要なのではないのかと私は考えます。
ただ、「重要物流道路における交通アセスメント実施のためのガイドライン」や、伴って制定されている「重要物流道路における交通アセスメント実施のための 技術運用マニュアル」などを見ても、その記載内容を見ると、「原則として、静的手法を採用することとして差し支えないが、2(1)アに掲げる施設であって店舗面積が10,000㎡以上のものやその他道路管理者が特に必要と認める施設については動的手法を採用することについて検討すべきである。」と記載し、動的手法の義務などへの踏み込んだ記述は無く、比較的負担の少ない静的な交通量配分手法の適用を原則とすることとしています。
この制度についての解説などでは「立地者の負担については比較的負担の少ない静的な交通量配分手法の適用を原則とする」とし「法的な強制力はなく、行政指導による任意の協力を求める」などと説明されており、いくら我々が望んでも動的シミュレーションの導入は難しいのかもしれません。
ただ、「交通シミュレータの選択については、立地者が提案し、道路管理者と協議して決定する」とし、「事前対策の実施内容は道路管理者と警察、自治体その他の行政機関と協議・連携して検討する」とされていることを考えると、住民・市民から強く要望することも大きな意義があるのではないかと考えます。
7.静的手法と動的手法
最後に、静的手法と動的手法の説明がマニュアルに掲載されていましたのでそれを抜粋して掲載致します。
【静的手法と動的手法の概要】
- 静的手法は、交差点の容量に対する需要(流入交通量)の比率である「交差点需要率」を算出し、各交差点の交通状況を評価する手法である。
- 動的手法は、車両1台1台の挙動を再現することで、道路ネットワーク上の交通状況を表現し、交通量や旅行速度、渋滞長等の指標を算出し、評価する手法である。
【静的手法の限界と動的手法の必要性】
- 静的手法で算出する交差点需要率は単一交差点を対象にした指標であり、複数の交差点間の空間的な影響は考慮されていない。そのため、たとえば、下流側の隣接交差点がボトルネックとなって交通渋滞が発生し、先詰まり現象が起こっている場合などには、流出に制約を受けて流入交通量が小さくなり、交差点需要率が小さく算出されてしまい、適切な評価ができない。
- また、静的手法は、ある一定の時間の平均的な交通状況を評価するものであるため、たとえば、店舗への進入待ち車両による後続車への速度低下の影響を表現することができない。
- 動的手法を適用することで、上記のケースについても適切に評価することが可能である。
今回のGLP施設の中心を南北に走る「はなみずき通り」は沿道に高齢者福祉施設や保育園があり、立川市の西砂小学校の近くも通ります。現在でも渋滞していますが、東西に走る新設道路が建設されると、新たな信号設置などの対策はなされ、今まで以上の大変な渋滞を招くことは間違いありません。
この渋滞を静的手法で検討するのではなく、動的手法で解析することで、信号待ちや侵入まちのトラックなどの影響を適切に評価できるのではないでしょうか。
動的シミュレーションの実施が必要なのではないでしょうか。
現在、道路管理者と警察、昭島市は事業者に対し動的シミュレーションの導入を要望しているのでしょうか。もししていないのであれば、昭島市に対し実施の確認とお願いが必要ではないでしょうか。
我々市民は「市長への手紙」を通して市への意見、市への要望を出すことで少しでもGLP計画が改善されるように働き掛けましょう。
守るべきは「市民生活」であり、「子供たちの命」「高齢者の命」なのですから。
市長への手紙を書きましょう。
下記のリンクから直接送ることができます。
https://www.city.akishima.lg.jp/form/002/001.html
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